創造のシナプス 
テトラ/彼岸島 デラックス 編

〜映像作品が生まれる現場の遍歴〜

ある映像作品に注目し、その作品を制作されたチームの方々に映像の制作過程を伺い、映像作品が誕生していく現場の遍歴として紹介する「創造のシナプス」

今回は、閉ざされた孤島を舞台に吸血鬼と人間の壮絶な闘いが描かれる松本光司原作のサバイバルホラー漫画「彼岸島」─── 2010年「彼岸島」(ワーナー・ブラザーズ)、2013年「彼岸島」(MBS・TBS) に続き、2016年、実写化公開された映画「彼岸島 デラックス」に注目する。

本作品の見所は、シリーズ初登場となる邪鬼 (おに) と呼ばれる巨大モンスターとの戦闘だ。原作で人気キャラクターの姫、太郎、百目といった個性豊かな怪物たちがはじめて映像化され、劇中を暴れまくる。

このクリチャーの映像化を手掛けた株式会社テトラは、柱とするVFX制作にとどまらず、企画の立ち上げから作品作りの様々なプロセスを牽引している。

映像のシナプスでは、クリチャー誕生の軌跡を中心に、テトラが創り出すVFXの世界、映像制作に掛ける想いに迫る。

©2016 「彼岸島」製作委員会

"株式会社テトラ" 探訪

2007年8月に設立した株式会社テトラは、2016年、創立10周年を迎えた。
現在は、総勢30名のスタッフが在籍。その全員が何らかの形でこの「彼岸島 デラックス」に関わっている。

今回、話を伺ったテトラの面々は ───
写真左から、プロデューサー : 原田英聡さん、テトラを率いる創設者・代表/ディレクター:谷口充大 さん、アニメーションスーパーバイザー : 川戸麻紀さん、コンポジットスーパーバイザー : 森出和真さん、プロダクションマネージャー : 高橋雅之さん、モデリングスーパーバイザー : 平田真一さん。

「彼岸島 デラックス」映像化を牽引

「彼岸島 デラックス」では、VFXの制作にとどまらず、様々な作品作りのプロセスに関わられたとのこと。
具体的にどのようなプロセスを担当されたのでしょう?

谷口:きっかけは 2013年、これまでお付き合いのあったクライアントから直接相談を頂いたところから始まりました。

まだ監督もいない、シナリオができる前の段階です。漫画の原作をどう映像化していくか、まさに企画の立ち上げに参加しています。

例えば、原作のどの部分を使うか、どのモンスターを何体登場させるか、絵の雰囲気をどうするかなど、作品の世界観の構築を、僕らから提案して脚本に落とし込んでいきました。

また資金の面でも、テトラ自体が製作委員会に入り、製作出資を行っています。

 

作品の内容に大きく関わっておられるのですね ───

谷口:はい。今回、僕は、VFXスーパーバイザーと、アートディレクションを担当しました。

このアートディレクションは、作品の世界観を構築する仕事になります。

日本では、映画の絵作りの大半は、カメラマンが担うことが多いと思いますが、海外では主にアートディレクターというポジションの方が中心になって、作品の方針やコンセプトなど、作品の世界観を固めていきます。

例えば、カラーコンセプト。映画のライティングのイメージであったり、シーンのトーンを決めていきます。トンネルのシーンはグリーン系にしてちょっと怖い感じを出す、といった感じです。

ほか、キャラクターデザイン、衣装デザインなど幅広く行っています。

衣装まで担当を?

谷口:衣装デザインです。衣装デザインは、キャラクターのファッションデザイン、キャラクターデザインにつながる絵作りの一つです。
主人公のキーカラーは何か、登場人物たちが並んだ時にどう見えるのよいか、といったことまでふまえながら映画全体の雰囲気を固めていきます。
衣装デザインの作画は、コンセプトアートやキャラクターデザインを担当するテトラの作画スタッフが担当しています。

衣装デザイン (画像左より、主人公の明、兄の篤、師匠)

原田:原作の比較的地味な衣装を、全て、映画映えするようにリデザインしています。例えば、主人公の明の腰に巻かれた赤いネルシャツは、前作のドラマシリーズを引き継いだ衣装になります。彼岸島の暗い絵の中で、主人公の赤色がとても引き立ったと監督にも言って頂きました。

谷口:またアートディレクションには、衣装や美術など、それぞれのパートが用意してくる世界観を統一させていくといった役割もあります。日本ではあまり馴染みがない職種なので、現場のスタッフにも理解してもらいながら進めていきました。

谷口さんは、アートディレクターのお仕事は普段からされているのですか?

谷口:いいえ、はじめてです。(笑) 

僕は通常、CGスーパーバイザー、テクニカルディレクション、監督、企画、プランナーなどやっています。
でも、テトラ自体も普段から、受注仕事でCGだけやります!というわけでないんです。

谷口:プロダクションとしては、リアルな合成、VFXからセルシェーダーを使ったアニメーションまで行ってます。

例えば、頂いたお仕事でコンテがそろっていない場合はコンテを作成したり、キャラクターデザインなども僕らのほうからどんどん提案します。

何も決まっていない企画段階からでもお手伝いできます ── というやり方は、テトラの一つの売りなんです。

それに僕、実は、、、海外かぶれなんです! 
海外帰りでもないのに (笑)

日頃関わった作品が、ハリウッドのクオリティが出ているかを常に意識しています。

僕自身、普段はCGのスーパーバイザーとして絵作りの最終的なジャッジを行うことが多いのですが、VFXスーパーバイザーがただのVFXで終わるのではなく、絵作り全体に影響を及ぼすようなポジションになっていければと考えています。

今回のアートディレクションのように、日本ではあまり行われていない部分の差を、自分たちで埋めたい。切り拓いていきたいという思いは常にあります。


テトラ社内での制作風景

アイディアの増幅

今回、映画制作全体に大きく関わるテトラさんですが、やはり本編の半分以上に渡って登場する邪鬼、クリチャーのVFXは、作品の大きな見所かと思います。
原作に登場したクリチャーが映像化を果たすまで、どのような流れを経たのでしょう?

1:イメージボード

谷口:まず今回の「彼岸島」実写化の話を頂いた時、わたしたちが一番最初に作成したのが、この邪鬼の太郎のイメージボードです。

この絵を元に、映画の世界観をどんどん膨らませていきました。

太郎:イメージボードと設定資料

当初、太郎のイメージボードで描かれていた股間の触手は、設定資料の段階ではフンドシの下に隠され、プランが進行していることがうかがえる。

メモ:「彼岸島」に登場するモンスター "邪鬼(おに)" とは

ウィルスに感染して吸血鬼になった人間は、血を吸わずにいると、恐ろしい発作を起こして邪鬼 (おに) と呼ばれる怪物に変異してしまう。その変異は邪鬼によって様々。理性を失った邪鬼は、驚異的な怪力、凶暴性を発揮する。

百目:イメージボードと設定資料
姫:イメージボードと設定資料

2:マケット、造形

谷口:キャラクターデザインの後、様々な準備と平行して作成したのが実際の造形、マケットです。
このマケットの実制作は、特殊メイク・特殊造形チームの「メイクアップディメンションズ」が手掛けています。

太郎、百目のマケット

VFX好きなら、思わず興奮してしまう!クリチャーの造形フィギュア。世界に1体しかないオリジナルだ!
大きさは、全長 30〜50cm 位。大変細かい部分まで緻密に表現されている。

姫のマケット

谷口:このマケットによって、作成する3DCGのアングルや質感をリアルに探ることができます。

写真は、マケットを撮影時のガイドとして使用した例
姫のマケットは、本体の真ん中から伸びた (だんごのくしのような) 棒を持って操る

またマケットは、3DCGの作成の参考にするだけでなく、ロケハン時に構図を探ったり、撮影時のガイド、テスト撮影としても活用できる優れ物です。

3:絵コンテ

谷口:シナリオ完成後、ロケハンと並行して、絵コンテを作成しました。

絵コンテは監督が描かれているのですか?

絵コンテ

谷口:コンテは、監督と僕らが議論するその場で、テトラの作画スタッフが絵に起こし、原作のコマなどもおりまぜながら、どんどん組み上げていった感じです。

絵コンテというよりも、動画コンテになります。デジタル絵コンテ作成ソフトの Storyboard Pro (ストーリーボード プロ) を使って作成しています。

Storyboard Pro (ストーリーボード プロ) の操作画面
静止画を活用して動画コンテを作成できる

谷口:邪鬼が登場する全シーンのコンテは、実質2回の打ち合わせで仕上げています。

一日目の数時間でざっくり決めたことを一気に書き込んで、終わったあと清書します。それを二日目の打ち合わせで微調整して、もうおしまい。清書は残っていますがほぼ完成させています。

ほかの工程も同様ですが、意識して行っているのは、"宿題を残さない" リアルタイムの制作フローです。

Storyboard Pro を使用した動画コンテ

絵コンテも、そのほかのフローでも、その場で仕上げて確認までできると、当初考えたイメージがやっぱり違うかなとその場で修正することもできます。

もちろん一度終わったあとから変更しても差し支えはません。でもこのやり方だと、仕上げたその場で全員がしっかりとイメージを共有して、イメージのぶれを無くすことができます。

作業を一旦宿題にしてしまうと、その後、イメージの擦り合わせに確認と手直しのリレーが発生して、遅れの原因にもなりますから。答え合わせを全部その場でやってしまえば、圧倒的に早いですよね。

4:カラーコンセプト

各シーンごとに検討されたカラーコンセプトに基づき、撮影時の照明プランが作られ、映画全体を通した全体のトーンや雰囲気が出来上がっていく。

カラーコンセプト:太郎の登場
カラーコンセプト:姫、炭鉱でのチェイス

5:3DCG

そして3DCG。イメージボード、マケット、そして3DCGと、様々な工程を経て、実写の合成まで昇華されていく。

百目:メッシュ表示
百目:シェーディング表示
百目:ローモデル表示 (眼球と瞼のRig)
百目:筋肉にシュミレーションオブジェクト (眼球と瞼のRig)
百目:使用された数々のレンダーエレメント
百目:レンダリング画像
百目:コンポジット完成画像

テトラの問題解決力:3Dプレビズ

実際に存在しない邪鬼を映像化するには、様々な課題や問題があったと思います。
邪鬼を映像化するに当たって、一番大変だったことは何でしょう?
それをどのように解決されましたか?

谷口:作品全体での一番の問題、課題は、邪鬼のイメージを、現場でどう共有して映像化していくか?ということでした。
なかでも撮影現場。やはり邪鬼と人物の戦闘シーンです。

撮影現場で、邪鬼は見えませんし、演技できませんから、アクション、リアクションは、全て撮影前から想定しておく必要がありました。
僕たちは、この邪鬼のイメージを認識してもらうことに、90%の力を注ぎました。その具体的な対策、共有情報として活用したのが、3Dプレビズです。

メモ:3Dプレビズとは

3Dプレビジュアライゼーション (アニマティック)、通称プレビズは、映画制作の準備段階において、従来の絵コンテに相当する各カットの画面構成などを、簡単なコンピューターグラフィックスで映像化したものである。撮影前にスタッフや出演者が最終的な画面構成について共通認識をもち、カメラのレンズの種類や、セットの大きさや範囲などを知ることができるため、撮影段階で大幅な効率化を図れる利点がある。(デジタル大辞泉より引用)

ロケハンでの計測
村のシーンを撮影した山形 庄内映画村。既存のオープンセットを活用した

計測

谷口:この3Dプレビズを準備するためにまず行うのがロケハンでの計測です。

シナリオの完成に合わせて、絵コンテと並行してロケーションハンティングを行いますが、その際に現場の計測を行います。

計測器は、建築現場などで使用されるレーザー計測器を使っています。

3DCGに起こされたロケーション

谷口:このロケハンで計測したデータ、現場の撮影写真、そして Googleマップの情報を元に、ロケーションを3DCGで再現します。

3DCGの距離や大きさは、完全な計測データから起こしているので、実際のロケーションにぴったりマッチしています。

ロケハンで計測値や資料を元に作成されたロケーションの3Dモデル

モーションキャプチャー

谷口:絵コンテが上がったら、邪鬼のアクションをモーションキャプチャーします。

このモーションキャプチャーは、テトラの自社スタジオで行っています。

テトラの自社スタジオ:邪鬼のアクションをモーションキャプチャーする

3Dプレビズ (アニマティクス)

3Dプレビズ (庄内映画村、百目のシーン)

谷口:そしてプレビズです。

先に用意した動画コンテを元に、モーションキャプチャーした邪鬼の動きを、作成した3DCGのモデルとロケーションにはめて、仮CGアニメーションの3Dプレビズを作成します。

この擬似的なバーチャル撮影によって、実写撮影時の邪鬼の位置や動き、アングル、カット割りなどを探ると共に、カメラをどこに置くか置けないか、クレーンを動かす範囲などをシミュレーションできます。

また追加したり、壊したりする3Dの建物、バーチャルセットのプランを立てます。

こうして作成した3Dプレビスを、撮影スタッフが見ることによって、最終的な完成イメージの共有し、現場の撮影スピードを上げることにつなげられるわけです。

テトラの問題解決力:撮影現場で

念入りに準備された3Dプレビズによって、撮影が進んでいくわけですね。
実際の邪鬼の登場シーンの撮影は、どのように行われたのでしょう?

谷口:3Dプレビズなどのプリプロダクションに半年ほどの期間を掛け、実際に撮影に入ったのは2014年の5月です。

彼岸島の村のパート (山形、庄内映画村)、石切場 (千葉鋸南町)、トンネル (旧荒沢トンネル)、そして最後にスタジオ (つくばスタジオ) でグリーンバックのパートを行いました。現場では、映画に加えて、映画の前章となるテレビ放映版 (4話分) も同時に撮影。撮影期間は、全行程で3ヶ月程度行いました。

撮影スタッフは総勢30名前後。テトラのスタッフでは、僕を入れて3名が撮影現場に入っています。


撮影現場、グリーンバックを立てた状態でのワイヤーアクション (庄内映画村、百目のシーン)

谷口:撮影時、役者さんは、見えない巨大な邪鬼と闘う芝居をするわけですが、実際の撮影は大きく次のような流れになります。

1:監督/スタッフとプレビズを共有
2:スタントやスタッフがテスト撮影
3:役者さんでのテスト/本番撮影
4:現場で仮合成して確認(CG班でチェックを行い問題があれば監督に相談)
5:リテイクするかCGで調整するか検討

グリーンバックでの撮影は、可能な限り同じシーンのロケーション現場で行います。

グリーンバックのライティングがシーンと同じ環境であれば、ライティングを作り直す必要がなく、合成もなじみやすくスムーズに行えるためです。

谷口:撮影現場では、収録素材がイメージ通り撮れているか、合成に問題ないかその場で確認できるよう、Blackmagic の機材を使って仮合成するプレビューブースを用意しました。

今回、現場に DIT (デジタル・イメージング・テクニシャン) の専属が立たなかったため、ミキシングや仮編集の作業をテトラが担当しました。

撮影素材に問題があった場合、結局全部自分たちにしわ寄せが来てしまう可能性がありましたから、現場でのチェックは欠かしたくない行程です。

撮影現場、Blackmagic の機材を使った仮合成のプレビューブース

撮影は、3Dプレビスのシミュレーション通りにうまく行ったのでしょうか?

谷口:そうですね。本当にしっかりとシミュレーションしていても、うまくいかないのが現場です。監督やカメラマンなど多くの方たちの意向もありますから。

撮影現場 (百目を祀る祠がある旧炭鉱のシーン)

谷口:とにかく、撮影現場では、邪鬼のテスト撮影を何度も行って、監督やカメラマンに、イメージを持ってもらってから撮影に挑むように致しました。

僕らからどんどんイメージできるものを渡していかないと、カメラマンさんや照明さんもリアリティーを持った撮影ができなくなってしまいます。

僕らとしては、実写に合わせてCGをアニメーションさせるというよりも、撮影している段階から一緒に歩いて行きたかった。むしろ少しCGがリードするようなイメージです。

でも、はやり映画です。プレビズから大きくプランが変更することもありました。

邪鬼の"百目"と主人公の明と兄の篤二人の戦いのシーン:プレビズ

撮影で一番大変だったのは、邪鬼の"百目"と主人公の明と兄の篤二人の戦いのシーンです。

この現場で、監督は、プレビズと全く異なるアクションプランを選択しました。
本番の撮影現場でのプラン変更なので、そのイメージは、監督の頭の中だけという状況でした。

いざ現場に入ってみると、新しく見えることは当然あると思います。現場のアドリブを否定するつもりはありません。でも僕らは、監督とのイメージのギャップを最小限に収める努力をしなければいけないと思うんです。もしギャップがあった場合も、対処できるように準備したいわけです。

邪鬼の"百目"と主人公の明と兄の篤二人の戦いのシーン:合成ショット

結局この百目の戦闘シーンは、撮影素材をCGでフォローして組み立てるフローを作りました。

最終的にどう仕上げていくか、また監督と探っていくわけですが、これまた先のコンテのやり方と同じように、宿題にしない。監督も一緒に編集してもらって全てをつないでいきました。いやー大変でした。

映像プラグインの活用

フラッシュバックジャパンといえばプラグイン。
今回の作品でどんなプラグインを使いましたか?

森出:彼岸島のコンポジットは Nuke を使用しています。活用したプラグインは、Lenscare と ReelSmart Motion Blur です。

Lenscare では、Out of Focus (アウト オブ フォーカス) でレンズのボケを。Depth of Field (デプス オブ フィールド) で被写界深度を調整しました。
そして ReelSmart Motion Blur でモーションブラーを追加します。
このボケとブラーが、3DCGの邪鬼を背景に馴染ませてくれます。

プラグイン適用前
プラグインを適用、Lenscare で被写界深度を調整、ReelSmart Motion Blur でブラーを追加
カラーグレーディングなど最終調整した完成ショット

最終的に使用したプラグインはこの2つだけでしたが、アクションシーンでは、ほぼ全カットに渡って使用しています。

■ Lenscare

■ ReelSmart Motion Blur

 

Nuke は、彼岸島ではじめてメインツールにしたのですが、リニアワークフローが格段にやりやすかったです。ノードベースでどこで何をしているかを一目で把握できるので便利でした。

OFXプラグインも、使用方法は After Effects プラグインと同じなので、スムーズに使えました。

こだわりのワンショット:森出和真さん (コンポジットスーパーバイザー)

今回の作品で最も力を入れた、または思い入れのある一つのショットに注目。
その見所、こだわりの部分について聞かせてください。

森出:僕が特にこだわったショットは、先ほどのプラグインの活用でも紹介した、太郎の登場場面、だんだんと手をつき吼えるショットです。

3DCGの太郎と背景のなじみにとても苦戦しました。単純にHDRの素材を使ってライティングしてもうまく合いません。コンポジットをはじめてしばらく、質感の落とし所を決めることが全くできませんでした。太郎が巨大であること、そして昼間のシーンであること。そこで自然に違和感なく見えるまで何度もやり直しました。

太郎:コンポジットのために使用した素材

谷口:こういったモンスターが登場するシーンは、通常、夜など暗い場合が大半なんです。そこをあえて日中のシーンにすることになりました。つまり、登場するモンスターがバキバキに映るわけです。モンスターを暗闇に逃せない、身体が陰らない、照り返しがある、といった様々な問題が出てしまうわけです。

森出:そこで本来の見せない考え方ではなく、逆に、質感をしっかり見せる方法で勝負しました。光が当たる部分は、陰影を少しだけ、付け過ぎず、薄くなり過ぎずを意識しました。

太郎:Nuke でのコンポジット

森出:ディテールを損なわないように、アンビエントオクルージョン素材。立体感を出す素材をできるだけ使って、全体的な質感が落ちないようにする。

あとは先ほどのプラグイン Lenscare でデプスを、ReelSmart Motion Blur でモーションブラーを追加し、奥行き感を出す。

このショットは時間のある限り、一番最後までやっていました。

 

谷口:太郎も百目も昼間のシーンですから。あえて見せる、一番しんどい闘いを選んだということですね。

こだわりのワンショット:川戸麻紀さん (アニメーションスーパーバイザー)

川戸:アニメーターとして特に力を入れたのは、百目の戦闘シーンになります。

問題解決の話にも出ましたが、この百目の戦闘シーンは、撮影でプレビスのプランが変更したため、用意していたキャプチャーデータが使用できない状況にありました。そのため最終的に、大半の動きを手付けで行っています。一番時間が掛かり大変でした。そういった面からも思い入れが強いでしょうか。

百目は、どのキャラクターよりもスピードがある設定でしたので、速いアクションが、カットごとにちゃんとつながって見えるか、迫力が出ているか、何度も再生してチェックしながら詰めていきました。

特に、百目が飛び出してくる1ショットは、トータル約2週間を掛けて作り込んでいます。

百目の戦闘シーン、登場するファーストショット

百目のアニメーションは、太郎の後につけました。太郎では巨大感がどうしたら出るか苦戦したのですが、そのノウハウを百目で生かすことができました。

更に、百目は俊敏なので、どのくらいのスピードなら、その大きさを殺さずに再現できるか探りながら仕上げていきました。

また体中に目がついていますので、予備動作がなく、すぐさま気配に気付くといった百目独特の不意な動きもこだわってつけています。

百目の戦闘シーン、登場するファーストショット (動画)

こだわりのワンショット:平田真一さん (モデリングスーパーバイザー)

姫:SSS適用後

平田:自分はモデラーなので、ショットを選ぶのは難しいですが、姫の肌の質感は、特にこだわって作成しました。

姫は怒ると、光が顔の中を透ける設定なのですが、その光具合をいかに見せるか考えました。

肌の透明感、透過した質感を出すのに、サブサーフェススキャッタリング (SSS) を使って調整しています。

こだわりのワンショット:谷口充大さん (VFXスーパーバイザー、アートディレクター)

谷口:僕はいろいろあって選ぶのが難しいですが、"姫" がらせん階段を登ってくるショットへの思い入れは強いです。
らせん階段を登ってくる"姫" (完成ショット)

谷口:予告編にあるショットは、どれもこだわりがあるショットですが、今回注力したのが、原作の漫画にあって映画にも登場するショットです。

中でも姫は、原作で一番ファンに愛されているキャラクターなんです。この階段のシーンも、原作にあるものです。その人気のパートを映像化するわけですから、責任感とかプレッシャーをとても意識しました。

観客から「なんだよー」とは思われないように、姫の圧倒的に強いという設定、そしてその質感、ほどよく気持ち悪い感じ。そういった面をどう表現するか思索しました。

らせん階段を登ってくる"姫" (カラーコンセプト)

姫が逃げる主人公たちを見つけて睨みつけるショットは本当にインパクトありますね。

谷口:モデラーの平田もあげましたが、この姫の表情はいろいろと試行錯誤しました。

最初の不気味な表情が、怒りモードに入ると顔に筋が入って光ります。

原作では、怒ると口が裂けるように開くのですが、不気味さを出すため普段から裂けたようにしています。


怒りモードの前後の"姫" (完成ショット)

姫は、頭から伸びる芋虫のような身体に、何本もの手が足のように生えている独特なキャラクターですが、これが動くんですよね!?
この現実にない生き物は、モーションキャプチャーも難しいですから、動かすのも大変だったのではないでしょうか?

姫のモデリング

谷口:姫の動きは、完全に手付けアニメーションです。

高速で動く場面では、地面についていない手もあるのですが、しっかり持つのがわかるショットでは、がっつりアニメーションを付けています。

姫は人型ではありませんから、ある程度連動して動く仕組みも作りましたが、最終的には手で付けるしかありませんでした。

谷口:姫は、らせん階段につづくトロッコのシーンでも試行錯誤がありました。邪鬼の姫に襲われた主人公たちが、炭鉱のトンネルをトロッコで逃走するのですが、その長く入り組んだトンネルをどう映像化するかが大きな課題だったんです。

もちろんセットで撮影できる距離や範囲には限度があります。用意したセットは、丁度、長手方向10メートルほどのT字路です。あとはCGで補うのですが、残りの長いトンネルを全てCGで作成していたら手間も時間も膨大になってしまいます。

トンネルを構成する全モジュール

谷口:そこで行ったのが、トンネルのモジュール化です。

つまり、細かく分けたトンネルのパーツをいくつか作成して、それをレゴブロックのように組み合わせて1本のトンネルにつなげていくわけです。

コンテからどんなアングルがあって、どういう道が必要かを分析し、それだけあれば全てのカットが成立するという最低限必要なパーツを用意しました。

このモジュール化で作業行程を大幅に削減することができました。

スタジオに建てられたT字路のトンネルセットでの撮影風景

このトンネルは、ラフのモデルを上げた状態で、カメラワークを作成し、その間にモデルの作り込みを行います。

当然セットともシームレスにきれいにつなげるために計測も完璧に行いました。

トンネルのシーン、主人公たちを乗せて走るトロッコを追いかける姫の合成ショット

唯一のこのシークエンスは、フルCGの背景になりました。当然コストも、難易度も非常に高くなる中で、クオリティーを維持しつつ、どれだけ予算や工期を抑えられるか、最終的に効率的なフローで作成できたと思います。

トロッコの撮影のメイキング写真

トロッコの撮影は、他社映画のメイキングを参考に考案されたサスペンション方式を採用。トロッコのボディを支える軸に軽自動車のスプリングを利用している。

クロマキーの衣装を着たスタッフが、トロッコの下に設置したバーを操って、トロッコを左右上下に傾ける。

サスペンションの仕組みでスプリングが動きの衝撃や振動を緩和しつつ、激しくも様々な動きを表現できる。

テトラのDNA

テトラさんならではの会社の雰囲気、体制はどのようなものでしょう?

谷口:会社は、早く来てやる人、遅く来てやる人、様々です。比較的自由な感じでやっています。僕はいつも会社にいますけど (笑)
テトラは、自分も含めて大半が若い人材なので、悪く言えば未熟、よく言えば柔軟。いつでも新しい技術を取り入れて活用する態勢は整っています。

テトラが作風や尺の長さ、リアルからカートゥーンまで幅広く様々な案件を受けている理由の一つが、例えば、リアルからカートゥーンに戻ってくるとやれること、逆にカートゥーンからリアルに戻ってやれることというのが沢山あるからなんです。つまり、他の技術から学んだり、技術転移をすると、掛け算ができる。掛け算が新しい表現を生み出してくれるわけです。

TVアニメ「アイドルメモリーズ」:ダンスパートはビデオの 1:30 より

テトラの異なるジャンルの掛け算の具体例の一つが、テレビアニメーション「アイドルメモリーズ」のダンスパートである。

3Dアニメーションのダンスパートを作成する際、まずステージに30台のカメラを設置、実際のライブステージの撮影のようにスイッチング撮影を行った。

一般的に絵コンテを作成してから各コマにカメラワークをつける決め決めのフローに対し、アニメにスイッチングという実写の手法を取り入れたことで、ライブ感覚あふれたダンスアニメーションに仕上がった。

谷口:コンテ作成もそうですが、テトラでは、普通の会社がやっていない気持ち悪いフローを沢山作っています (笑)
僕のアイディアもありますし、海外メイキングで見たことを真似てやったりします。ノリは学生の映画制作に近いかもしれませんね。

彼岸島のフローで新たに導入したフローの一つが、Autodesk社のプロジェクト管理ツール「Shotgun」

デザインやアセットの段階から映像制作の全フローの進捗を管理。社内フタッフで共有し、進行の確認、クオリティのチェックバックできる。現在は、完成したモデルの情報の橋渡しなども行なえる。

彼岸島で試行錯誤した後、2、3案件続いて活用。現在はテトラなりの使用方法ができあがり、標準ワークフローとなっている。

Shotgun の操作画面

他社と仕事を行う場合も活用する仕様書。非常に細い部分まで決められらている。

テトラでは、技術を一人の個人の中に埋め込まない、複数の人で共有する仕組みが考えられている。

仕様書の例

日頃、心掛けておられること、されていることはありますか?

谷口:僕自身は、視野を広く持つことを心掛けています。24時間、作品のことをずっと考えています。常にいいものを探して、いいと思えばどんどん取り入れていきます。テレビの経済番組を見て、効率的なフローを取り入れることもあります。実はCG業界以外から生まれていることもあります。

テトラでは、一つのプロジェクトに取り掛かる度に、気になること、嫌なこと、面倒なこと、そしてその改善案をみんなで出し合います。僕自身ももっと劇的に変化できるようなアイデアを出します。

まずはなんでもやってみる!そして3、4回やってみて、ようやく形が見えてくる、手に馴染んでくればいい。もちろんまだまだブラッシュアップしていきます。
自分たちそれぞれが考え、どうしたらよいかを定義しながら学んでゆくチーム ─── それが理想ですね。

モーションキャプチャー中のテトラ自社スタジオ

モーションキャプチャーの自社スタジオを完備するテトラ。
インディーズのノリで導入したモーションキャプチャーも、現在はテトラのフローとして確立。プレビズを作成する際の標準ツールとなっている。
テトラのなんでもチャレンジしてみるDNAの代表的成果の一つである。

テトラ探訪を終えて

設立10周年のテトラ ─── アグレッシブに会社を導く代表の谷口氏と、高い要求に実直に応える意欲的なスタッフが、一丸となって突き進んでいる印象を受けた。

今回の「彼岸島 デラックス」でVFXを担当したというよりも、VFXを中心に企画の立ち上げから作品作りを牽引したテトラは、新しく効率的なプロセスを次々と生み出し、思考改善しながら発展させ、同時に新たな仕事、作品へとつなげている。

よきものは貪欲に吸収して、自社のフローをブラッシュアップ、自分たちのものとしてゆく。まさに未踏の映像制作フローに果敢に挑むチャレンジャー、進化するVFX工房、映像制作プロダクションと強く感じたインタビューであった。

お忙しい中のご協力、誠にありがとうございました!

株式会社テトラ

株式会社テトラは2007年8月21日に設立し、CGを利用した映像を数多く制作してきました。2012年には社屋移転と共に実写撮影にも対応したモーションキャプチャースタジオ業務を開始しました。

テトラの制作する映像作品は、ジャンルや作風の垣根を超えて、実写合成、フルCG、CGを使用したトゥーン表現等あらゆる映像表現をハイクオリティに制作してきました。作風に囚われない事で、それぞれの技術の垣根を越えた技術応用が可能になり、より多彩で自由な表現をハイクオリティに実現します。

■ 株式会社テトラ