創造のシナプス 
DigitalClover (東京現像所・VFXチーム)/ライチ☆光クラブ 編

〜映像作品が生まれる現場の遍歴〜

ある映像作品に注目し、その作品を制作されたチームの方々に映像の制作過程を伺い、映像作品が誕生していく現場の遍歴として紹介する「創造のシナプス」 ───

今回、注目する作品は、2016年2月公開の劇場映画「ライチ☆光クラブ」だ。

原作は、古屋兎丸 氏による漫画作品。その源泉は、1980年代に公演された東京グランギニョルの演劇「ライチ光クラブ」である。

注目の若手俳優たちが揃った青春映画でありながら、退廃的で甘美、残酷でカルトな世界観を持つダークファンタジーという異色の作品だ。

この「ライチ☆光クラブ」のVFXの世界を覗いてみよう。

©2016 「ライチ☆光クラブ」製作委員会

DigitalClover (東京現像所・VFXチーム) 探訪

この「ライチ☆光クラブ」のCG作成、映像合成のVFXを手がけたのが、DigitalClover (デジタルクローバー) だ。

DigitalClover は、ご存知日本のフィルムラボの老舗、東京現像所のデジタルプロセスグループのユニット名。東京現像所の合成部門、VFXチームである。

まずこの DigitalClover が、メインでVFX、映像合成を手掛けた近年の主な作品名をあげてみよう ───

・陽だまりの彼女
・神様のカルテ2
・アオハライド
・くちびるに歌を
・orange-オレンジ-
・ライチ☆光クラブ

さて、みなさん、突然ですが質問です。これら多数の作品を手がけた DigitalClover のスタッフは、総勢何名でしょう?

なんと ───、現スタッフの総数は、僅か5名。

そして「ライチ☆光クラブ」のVFX、映像合成を担当したのも、総勢5名。うちお二方は現在の在籍メンバーと異なりますが、他社さんとの共同作業はなし。
10名以上の合成スタッフが関わってもおかしくないボリュームの合成パートを、全て5名で作成しているという。
まさに少数精鋭のチームなのである。

今回話を伺ったのは、DigitalClover 中核のお三方。

写真左から、鎌田 康介 さん、内山 涼香 さん、そして合成担当主任の 廣田 隼也 さん。

廣田さんと鎌田さんはデジタルアーティストでありながら、VFXスーパーバイザーとしても活躍されている。

尚「ライチ☆光クラブ」のVFXスーパーバイザーは鎌田さんです。

東京現像所の第一試写室にて
そこは趣のあるプライベートシアター。映画好きには、そこにいるだけでドキドキしてしまう空間だ。

DigitalClover の遍歴

東京現像所のVFXチームが設立されたのはいつ頃でしょう?

DigitalClover (東京現像所・VFXチーム) のみなさま

鎌田:東京現像所は、元々フィルム現像の会社ですが、1995、6年頃から、テジタルCGの制作をスタートしています。

廣田:今からおよそ20年前ですね。当時の東京現像所は、フィルムの現像から派生して、フィルムをデジタルに変換するフィルムスキャニングと、レコーディングを導入しました。それに合わせデジタル合成を行うことになり、CG部門が設立されました。

このCG部門がはじめて手がけた3DCGは、おそらく「ゴジラ対デストロイア (1995年公開)」です。

東京現像所は、東宝系列の会社ですからゴジラは昔から手掛けているのですが、この最初の仕事は、実写合成というよりは、劇中に登場する3DCGの制作でした。劇中で謎の生物が登場し、それを解析する際、未知の生物がモニターにワイヤーフレームで描画されるといったイメージです。

鎌田:この3DCGは、わたしたちの更に先輩方が制作したものです。実際の作成は、今はもうないソフトウェアを使っていたようですね。After Effects のバージョンがまだ1.0の頃です。

廣田:実写と実写をオプチカル合成をやっていた時代です。僕はこの部屋の中では一番古株で16年ほどになりますが、以前からスタッフは5〜6人で、10人上回ることはなかったです。

鎌田:現在、DigitalClover の仕事の大半は、実写合成です。中でも多いのは、さりげない季節の変化です。その中で「ライチ☆光クラブ」は、珍しく VFX が前面に出た作品になりました。

「ライチ☆光クラブ」のVFXプロセス

「ライチ☆光クラブ」の制作プロセスについて教えてください。

鎌田:「ライチ☆光クラブ」は、「陽だまりの彼女」でご一緒したカメラマンの板倉陽子さんからお声掛け頂いたのがきっかけでした。
元々、板倉カメラマンは、内藤瑛亮監督と一緒に仕事をされていて、その中で今度ライチ☆光クラブという作品をやるのですが、というご紹介ではじめてお会いした感じです。
「光クラブ」の9人の少年たちが集う秘密基地

「ライチ☆光クラブ」の合成カットは、約150カット。メインの作業期間は、2015年の1月下旬から約2ヶ月です。撮影が行われたのは、2014年の11月末から約3週間。ロケ地は、静岡県の富士市です。

この富士市は工場が多い町ですが、実際に稼働している製紙工場の一画をお借して、大半のシーンをその工場内で撮影しています。

珍しいのは、この映画の撮影が、ほぼ夜間だったことですね。日中、工場でたくさんの人たちが働いていることもありましたが、夜なら窓を遮蔽しなくても、光クラブの秘密工場のイメージをそのまま出せます。

そこで役者も含めてスタッフは全員夜勤、ナイトシフトで働いていました。日中は寝て、夕方4、5時くらいに「おはようございます!」と現場に入り、夕飯後、撮影しています。朝日が出てきたら撮影終了ーという感じでやっていました。

─── VFXにはどんなツールを使用されていますか?

鎌田:After Effects は全員が使用しています。CGは、Maya、3ds Max を、ほか Nuke などを活用しています。

廣田:わたしたちは、基本的にカット頭から出来上がりまで全て一人で担当しています。ゼネラリストという扱いでCGの作成から合成まで、一貫して行います。時々分担することもありますが、ほとんどは各カットを一人で受け持っています。

鎌田:色を管理するカラーグレーディングは、弊社のカラリストが担当しました。合成時に、カラリストとカメラマンが決めた色合いを反映するルックアップテーブル、LUT(ラット)を用意し、その LUT を After Effects の調整レイヤーに当てた状態で作業しています。

VFXスーパーバイザーの仕事とは

鎌田さんは「ライチ☆光クラブ」のVFXスーパーバイザーを務めておられますが、VFXスーパーバイザーは実際にどのようなことを行うのでしょう?

「ライチ☆光クラブ」の撮影現場で

鎌田:作品の合成に関してメインで関わる時は、廣田や僕がスーパーバイザーというポジションに立って、合成のカットを監督と詰めていくことになります。

撮影中は、基本的に現場にいます。実際の撮影現場で、合成パートで対応できるか撮影が必要かを検討したり、最終的な完成イメージに基づき撮影時の考慮点などを伝えたりします。このやり方は光クラブに限らず、ほかの作品でも同様です。

今回の撮影で合成的に重いショットについては、廣田も参加しています。二人で一週間ほど、僕は一ヶ月ほど富士市に滞在していました。

鎌田:本来、VFXスーパーバイザーは指示を出すだけで、合成作業はしないことが多いのですが、わたしたちは人数が少ないこともあり、スーパーバイザーでも実作業も行っています。

VFXスーパーバイザーと実作業を両方担当すると、全体を把握しながら作業できるメリットがありますが、逆に客観的に見れなくなるというデメリットもあります。

 

鎌田:作品全体を一歩引いた目線で見て、監督の求めるものをジャッジしていくのがスーパーバイザーの役割ですが、実作業をしてしまうと、これ頑張ったから使いたいという気持ちも出てきてしまいます。そのバランスは凄く難しいですね。

そこで僕がスーパーバイザーをやる時は、自分の実作業カットは少くして、できるだけ全体を見るようにしています。

DigitalClover の問題解決力!

今回の作品ではどんな問題が起き、どのように解決されましたか? 
特に印象深い制作過程を聞かせてください。

鎌田:この作品の合成キーワードの一つが「煙」でした。

まず劇中の舞台となる螢光町は、工場をメインにした町で、無数の煙突から黒い煙が出ているような世界です。ほかにも主人公たちが持つ武器の釘が飛び出す釘銃からの煙や、ロボットのライチから出る煙など、様々な「煙」を本編中で出していく必要がありました。

螢光町の世界観を象徴するキービジュアル完成ショット

鎌田:しかし、それだけの煙を素材撮影しようとすると、ちょっと大変なことになってしまいます。まずブルーバックで撮るといっても、スケールの大きいブルーバックを用意するにも限度があります。また煙を出す為の場所も確保しなければいけません。

例えば、劇中にライチの木が燃えるくだりがありますが、その場面は実際に木を燃やして撮影しました。もちろん撮影には許可が必要でした。画面には映りませんが、すぐ横に消防車も待機しています。しかし現場で出せる煙はどうしても限界があります。

そこで用意したのが3DCGの煙です。

用意された3DCGの煙のパターン

鎌田:ただ、3DCGで用意するとしてもその量は膨大で、その煙を用意するだけでもかなりの時間が必要でした。実際に撮影が終わってからの合成作業で煙を用意していたら、作業が間に合わないということが既に撮影前の検証で想定できた訳です。

そこで撮影と並行して、汎用的に使用できる3DCGの煙を作成して、実際の合成時にいろいろと組みわせて膨大な煙のカットに備えるという方法を取りました。

煙の作成は、3ds Max 用プラグインの FumeFX を活用

廣田:煙の作成には、3ds Max のプラグイン FumeFX を使用しています。撮影中に用意したのは、強め、弱めなど15パターンほどです。撮影素材が上がったら、このパターンから選んでのせていくというやり方ですね。

鎌田:煙がたなびく方向は片方向で作成し、実際に使う際に反転させたりしながら使いました。

特に工場から出る煙の色は、黒い設定ですが、今、黒い煙というのは存在しないんです。現在の工場から出る煙は、規制によって全て白い煙なので、実写として撮影することができません。それに白い煙を黒くするのは実はすごく難しいんです。
そういったことからも最初からCGで黒い煙を目指した訳です。

─── 問題が、問題にならないように、あらかじめ備える。まさにプロの姿勢です!

「ライチ☆光クラブ」VFX制作の過程

ここで螢光町のキービジュアルに注目し、そのVFXの作成過程を見てみよう。
ベースとなる景観(海のショット)
ベースとなる景観(工場のショット)

キービジュアルとなる工場の景観は、昔の炭鉱場のようなイメージ。
手前に住宅街、川を挟んで奥に工場街。工場から伸びる煙が空一面を覆う世界である。

ショットを作る上で、様々な素材が用意された。手前の川や、工場のベースは実写、その他はスチールを活用している。

マットペイント 前景
マットペイント 背景
用意した黒い煙を組み合わせる
グレーディング前の合成ショットが完成
このショットを担当されたのは鎌田さん。
活用したソフトは Photoshop とAfter Effects。様々な素材を組み合わせてマットペイントのように作成されている。

撮影前のテストムービー

合成時に起きる問題を、事前のシミュレーションで洗い出し、あらかじめ問題にならないように対応策を講じているのですね。納得です。
事前のシミュレーションは常に行われるのですか?

鎌田:実は手掛ける作品のほとんどで、VFXが必要なショットをどのように撮影して合成まで行うのか、撮影現場に入る前に自分たちでテストムービーを作成しています。特に撮影方法やイメージがつかみにくいショットを実際に撮影して、仮合成まで行う訳です。

例えば、ゼラ (古川雄輝) が、ジャイボ (間宮祥太朗) に目玉を舐められるショットについて、どのように撮影して、どのように合成するかの検証したものです。
わたしたちが考えたのは、撮影時は、目をつむった状態で、舐めてもらい。そこに別撮りした開いた目のショットを合成するという方法でした。

撮影前のテストムービーから
1、目をつむった状態で舐めるショット
2、目を開いたショット
3、合成ショット(目を開いた状態で舐める) テストでは左目のみ、合成。
テストムービーに登場するモデルは、スタッフのみなさま。カメラは7Dを活用。撮影もスタッフ同士だ。
鎌田:またロボットのライチが、ヤコブ (岡山天音) を投げ飛ばすショットです。
実際に人を投げ飛ばして壁に叩きつけるのは難しいため、3DCGを使いました。その際、手前にいたキャラクタがばっと風を受け、投げ飛ばされる威力を出しています。
テストムービーから
飛ばされる3DCGのキャラクタと、風を受ける人物。
風はドライヤーを使用。帽子はテグスで引っ張る。
完成作品より
ヤコブが壁に叩きつけられる
3DCGのキャラクタは、Digital double (デジタルダブル) を使用。
鎌田:こちらは、バン!と打ち合わせるライチの両手の中で頭がつぶされ吹き飛ぶショットです。
テストムービー:潰す瞬間
ライチの手は仮に紙袋で作成したものを使用。
つぶされるモデルは鎌田さん、、、
テストムービー:潰れた後
ロケーションも映画のイメージに合った場所にしている。
ちなみにこのショットは、東京現像所の倉庫だとのこと。
完成作品:潰す瞬間
打ち合わされるライチの手 ───
完成作品:潰れた後
崩れ落ちる人物

鎌田:このように撮影前にテストムービーを作成することで撮影方法や合成方法を想定し、本番の撮影や作品の仕上げに向けて監督やカメラマンたちと詰めていきます。

もちろん、あらかじめ準備していても、撮影現場で100%うまくいくという保証はありません。それでも、イメージはつかみやすくなり、撮影もスムーズになると思います。またテストムービーは、役者さんがグリーンバックの前で、演技だけでリアクションしなければいけないような時に、演技のレファレンスにもなっています。

─── まさに「備えあれば憂いなし」を体現されたお仕事です!

こだわりのワンショット:廣田さん

今回の作品で最も力を入れた、または思い入れのあるショットとその見所、こだわりの部分について聞かせてください。

廣田:僕のこだわりのショットは、作品中でライチが暴走し、光クラブのメンバーを殺戮していくシーンで、ジャイボがライチに叩きつぶされるショットです。

監督による絵コンテ

人物が叩きつぶされてぺしゃんこになってしまうというこの描写ですが、このショットを作るにあたって、まず実写の人物と、ぐしゃりと潰されるCGを別々に用意しました。そして実際の人物を途中からCGに置き換えています。

テストムービーを見てください。想定した撮影方法と、最終的に使用するツールや合成方法で作成しています。

テストムービー1
ライチ役
テストムービー2
つぶされる人物は、実写からCGキャラに置き換える
テストムービー3
合成ショット

鎌田:実際の撮影でライチはスーツアクターさんが演じています。ライチは2メートル以上ある設定なので、ライチの手足も実際の役者さんより伸ばしたものになっています。このショット、原作ではジャイボに振り下ろすライチの手が床まで伸びているのですが、実際の演技ではそこまで届きません。そんな状況でも、本当に潰してしまったように見えるのかという検証も必要でした。

完成したショットでは、基本の動きは先の検証映像をほぼ踏襲されています。

廣田:現場の撮影では役者さんはヒュッとしゃがむ演技をしています。CGに置き換わる前、そのしゃがむ一瞬を使っていますね。髪の毛の動きなどもCGで作成すると凄く大変なので実写を使っています。

鎌田:本番では潰された人物の肉片が飛び散ったり、もっと派手になっています。肉片自体は、撮影現場である程度まいた感じですね。あとから足しましたか?

廣田:はい。肉片は実際に撮影する造形物もあったので、それをスチールでおさめておき、合成時に Trapcode Particular で飛び散らせています。

─── Particular で肉片を飛ばす!凄い使い方ですね、、、(ちなみに Particular はパーティクルの粒子に3DCGも使えます)

Trapcode Particular で飛び散らせた肉片
完成ショット

廣田:それに監督が、飛び散った後の左手の動きにこだわっていました。撮影中も「もう少し、ピクピク動いて!」と (笑)
この千切れた左手の動きは別撮りしています。実際に役者さんに寝てもらい、手を動かしてもらったものを合成で使っています。

監督が左手にこだわったので、僕は右手にこだわってみました。
監督から右手をどうするか具体的な指示はなかったですが、自分の判断でカメラの手前に飛んでくるものと下手にフレームアウトしていくもの2パターン作りました。最終的に、監督は画面の手前に向かって飛んで来るのを選びました。一瞬のこだわり、ぜひ完成品でチェックしてみてください。

こだわりのワンショット:内山さん

完成ショット

内山:わたしのこだわりのショットは、ライチの心臓です。

クライマックス、ライチが暴走し殺戮を開始する直前、ロボットのライチに人間の心が宿る場面になります。

内山:この心臓はグリーンバックで撮影されています。その背景を 3ds Max で作成しました。写真で撮影されたパソコンの基盤をベースに、他パーツと組み合わせてモデリングしています。

撮影された心臓の造形
3ds Max で作成された心臓部の背景

内山:ホースのような形状は現場で撮影したスチール素材を活用しています。ほか足りない部分は、会社中を回ってLANケーブルなどの配線の素材を写真で撮影し活用してます。

合成に活用したホースのような形状や LANケーブルなどの写真素材
After Effects で作成された血管用のマスク

内山:このライチは中学生が作ったという設定もあるので、監督はそんなにハイテクなロボットではないと言われて、少しアナログ感を出しましょうということになりました。

そこで使ったエフェクトが、After Effects の「稲妻」です。

(稲妻は、エフェクトの描画に収録されています)

内山:この稲妻の効果が、ライチの心臓へつながるケーブルやコードを突き抜けていくのですが、その形に沿った稲妻の動きは、ほとんどを手付けで行っています。

ラインに沿ってヌルを移動させ、それを追いかけさせています。ライチの心臓に血が通っていくような動きも、全てマスクを切ってつけました。

光は、現場でも照明効果を足して頂いてますが、合成時に追加しています。基盤の光は、CGのライティングでつけたものです。火花は実写素材です。

画像:ライチの目がカッ!と光るショット

内山:ライチの目がカッ!と光る部分もアニメーションなどを参考にしながら一コマ一コマ手付けで調整しています。目の光や、目の部分で暗くなった際に出る輪は、プラグインの Optical Flares を活用しました。

─── このなんとも言えないアナログ感、動きの面白さは手付けのたまものなのですね。

こだわりのワンショット:鎌田さん

鎌田:僕のこだわりの1ショットは、ライチの見た目、ライチ視点の映像です。

まず監督のライチ視点のイメージは、ドット絵のような映像でした。
参考としてお聞きしたのが、「わたしは真悟 (楳図かずお 著)」という漫画作品に登場するドット絵です。このドット絵を実写でやるにはどうしたらよいか、テストムービーで模索して、モザイクなどの効果を掛け合わせたようなショットを何パターンか用意しました。

撮影には、わざと GoPro を使っているのですが、更に歪みを加えて拡張したり、モザイクを掛けたり、解像度を落とすように見せる効果を狙っています。

テストムービー:素材
テストムービーの完成ショット:After Effects グリッドの調整を加えたもの

鎌田:ドッド柄自体は、After Effects の標準エフェクトのグリッドのパラメーターを調整することで作成してます。

テストの段階で、エフェクトはドットとモザイクくらいまでしか行っていません。このチラチラしているのは手動で、人力で作成しました。確かワイプの組み合わせで作っています。ただ、この調整を本番でも行うのは凄く大変だということが判りました。

そこで本番時の調整に導入したのが After Effects プラグインの Red Giant Universe です。Universe は、50ほどのツールが入ったエフェクトの集合体ですが、まずドット絵に時々出てくるジャジャっというノイジーな感じを、Universe の Glitch (グリッチ) で作成しています。

また、ところどころに細い線が入って来る、ズレのような効果は、Universe の VHS というエフェクトです。ほか画像のブレに、Universe の Holomatrix (ホロマトリックス) を使っています。

これらのエフェクトが手付けの手間を解消してくれました。

本編撮影素材
歪みを誇張し、月を追加した状態
After Effects での合成、グリッドの調整に加え、Universe の Glitch (グリッチ) を追加
ライチ視点の完成ショット

鎌田:画質がよくないアナログな感じを出したい時、この Universe に収録するエフェクトは非常に効果的でした。

今までこのような映像を汚すためのプラグインは東京現像所にはなくて、今回初めて導入したのですが、このライチ視点には非常にマッチしましたね。Universe で効果の引き出しを増やせたことも大きいです。

映像プラグインの活用

フラッシュバックジャパンといえば、プラグイン!
ここまでのお話でも、Red Giant Universe などの事例がありましたが、ほかに活用されたプラグインはありますか?


廣田:僕は、困った時は Trapcode Particular です。カスタマイズできますし、レンダリングやシミュレーションなど、作業時間のことを考えると、2Dで処理できる Particular はとても重宝しています。

こだわりのショットでは Particular で肉片を飛ばしていましたが (笑)、今回 Particular が生かされたショットといえば、ライチの木が燃えるシークエンスです。実際に燃える木の前で、主人公のタミヤ (野村周平) とニコ (池田純矢) が殴り合います。

 

廣田:この撮影では、役者さんの演技中、実際に木を燃やしているので、実際に出ている火の粉もあるのですが、手前の方までは来ていませんでした。そこで、格闘する二人の周囲に Particular の火の粉を追加しています。

空に向かって広がりつつ手前にも来るような火の粉は、全て Particular で作成したものです。

火の粉のボケは、Particular 自体に、カメラを設定しておくと、Z軸が近い手前の粒子はボカシてくれる機能を使っています。

またこのシーンも全体的に、熱による空気の歪みをつけています。強く足したりする部分もあるし、弱く足した部分もあります。歪みと火の粉で、戦いの臨場感を出しました。

鎌田:燃える木の炎はほぼ実写です。

撮影はとても大変でした。炎の状態がどうなるかは撮影するまで判りませんでした。

撮影ショット

鎌田:実際に撮影をしてから、ちょっと足りないねということで、合成時に炎の映像素材などで補填をしています。

やはりこのような火事などのシーンや火の粉といった表現は、Trapcode Particular は効果的に使えると思います。

─── リアルな Particular の火の粉。どこから実写で、どこから Particular か全くわかりません。

完成ショット (炎や火の粉を追加)

内山:Particular は、ライチの実が崩れるショットでも使っています。ロボットのライチに抱かれたカノン (中条あやみ) が、ライチの実を差し出すと、その実がサラサラと崩れ消えていく場面です。

ライチの実がサラサラと崩れる 3ds Max

内山:ライチの実のメインツール には 3ds Max を使っています。

監督から、固まって飛んでいくものを、もう少しふわっとさせてほしいといったリクエストがあり、何度も調整をしました。でも、3ds Max では毎回レンダリングする必要があるため、監督のイメージに近づけるためとても時間が掛かったんです。

そこで微調整というか、もう少し雰囲気を足すということで Particular を使いました。最後の調整は Particular で行っています。完成まで2〜3週間掛かかりました。

ライチの実がサラサラと崩れる完成ショット
ライチの実がサラサラと崩れる完成ショット (部分拡大)

鎌田:また、わたしたちは実写合成が多いので、キーヤーの Primatte Keyer や、Key Correct といったプラグインを使用することが多いです。

素材によって使用するキーヤーは異なりますが、Keylight より Primatte Keyer を選ぶ頻度が高いでしょうか。またキーヤーは、組み合わせて使うこともあり、その時その時に応じてベストな方法を選択しています。

─── 実写合成にも様々なプラグインを活用されているとのこと。Trapcode Particular は2Dのエフェクトなので、やりくりとしても役立つというのも嬉しいお言葉です。

DigitalClover のDNA

─── 作品を離れて、日頃の DigitalClover のみなさまについてお聞きしたいのですが、日々の映像制作のために普段されていることはありますか?

廣田:僕は時間があれば漫画を読んでいます。家にいる時はほとんど読んでいますね。コマ割りみたいなものとか参考にすることはありますが、実はあまり仕事目線では見ていません。日頃のエネルギーの素みたいなものでしょうか。

最近のオススメは「アイアムアヒーロー (花沢健吾 著)」です。このコミックの一巻目がいいんです。はじめ、ごく普通の日常生活が描かれているのですが、一巻の最後の最後、見開きで飛行機が墜落するカットが描かれます。そこからいきなり非日常の世界に突入するのですが、その衝撃の転調を一巻まるごと使って魅せるのがすごいですね。

内山:私はアニメを見るのが好きです。それに旅行のブログを見るのも好きです。特にマニアックなところに行っている人の記事に惹かれます。例えば、工場めぐりや、廃墟めぐりしている人の記事です。

─── 廃墟、、、ご自身でも行かれるのですか?

内山:自分で廃墟には行かないのですが (笑) マットペイントといったお仕事があると、あの辺りはこんな雰囲気だったかなと思って参考にすることもあります。

鎌田:内山はイラストも描きます。「ハードナッツ! 〜数学girlの恋する事件簿〜」の劇中に数式の組み合わせたような猫のアニメーションが登場しますが、これは内山が書いたイラストを監督が気に入ってできたものなんです。

─── 内山さんは、イラストまで描かれるのですね! では、鎌田さんは?

鎌田:僕は時間があれば音楽を聴いています。音楽を聴くことで、仕事が変わってくるイメージがすごくあります。

元々学生時代の専攻が音楽でしたので、自分でも演奏したり、音楽を作ることもあるのですが、音楽と映像、どちらもタイムラインにいろいろなものを載せていく工程がすごく似ているんです。
まずリズムパートを載せ、ベースを載せ、さらにメロディーを載せて、、、とまるで After Effects のタイムラインに載せていく感じなんです。重ねたらバランスを取ったり、エフェクトを掛けたりと、僕の中で音楽と映像はとても近しいものを感じます。

それに、頑張っているところをあまり出さないという面も、音楽と映像を作る工程で通じる部分がありますね。

───頑張っているところはあまり出さないとは?

鎌田:それは合成を行う時にも、スーパーバイザーで意見を言う時も、通じることなのですが、頑張ったところは、割りと見せたくなると思うんです。それは作り手としての性分でもあるのですが、その、どうだ ───!みたいな感じは、鑑賞者から見ると鼻についてしまう気もします。

鎌田:わたしたち DigitalClover のお仕事の多くは、実写合成ですが、普通に見ていたら、合成とは気付かないショットが多いんです。
例えば、夏場に撮影した景色を、桜が満開の春に変えたり、看板を変えたりといった調整です。

でもそこで頑張っているとこは逆に見せない方が格好いいと思うんです。鑑賞したあとで、そういえばあのカットどうだったんだろう? というくらいの感じでいいんです。この、さりげなく、すっと作品に溶け込ませるという姿勢は、わたしたちがとても大切にしていることですね。

写真左から、鎌田さん、内山さん、廣田さん
みなさま、是非「ライチ☆光クラブ」を劇場でチェックしてください!

DigitalClover (東京現像所・VFXチーム) 探訪を終えて

DigitalClover のみなさんは、それぞれの持ち味を生かしつつ、ゼネラリストとしてあらゆることをこなし、一見VFXだとわからないさりげないVFXを目指す ─── そんな静かにも熱い姿勢に大変感銘を受けました。

ライチ☆光クラブの仕上げ中はとても忙しく、実はほかの作品も3、4作、重なっていたとのこと。お忙しい中、貴重なお時間を頂きありがとうございました!

さて、本インタビュー直後、東京現像所・VFXチームのユニット名、「DigitalClover」が正式に発表されました!

今後は続々と DigitalClover をお見かけすることになると思います。

DigitalClover、東京現像所さまの益々のご活躍をお祈り申し上げます!